2023.02.28 [tue]
文化首都 ’23:ベルガモとブレシア
みなさんは、ベルガモとブレシアという北イタリアの2つの都市をご存知でしょうか。
イタリアといえばフィレンツェやナポリなど、中部以南のイメージが強いかもしれません。
筆者は現在、ベルガモに住んで3年目になりますが、世界遺産があったり欧州格安航空の発着港であるベルガモ空港があったり、実はとてもにぎわっている街の一つなのです。
2023年は、そんなベルガモと、隣町のブレシアがイタリアを代表する文化首都に選定されました。1年を通して様々な取り組みやイベントが予定されています。
本記事では、カルチャーシティの概要と2都市の見どころを深掘りしてみたいと思います。
INDEX : クリックで移動
◉ 文化省公認のプロジェクト
◉ プロジェクトの目的
◉ 欧州文化首都とは
◉ これまでのイタリア文化首都
◉ 2023年は2都市で共同首都
◉ The city of hidden treasures / The city of nature / The inventive city / Culture as a cure
◉ ニューヨークタイムズ紙も注目!
3. ベルガモ
ベルガモといえば:
ガエターノ・ドニゼッティ / アカデミア・カッラーラ / オーリオ・アル・セーリオ空港
4. ブレシア
ブレシアといえば:
ローマ時代のユネスコ世界遺産 / ミッレミリア / フランチャコルタ
6. 終わりに
イタリア文化首都プロジェクト とは
食やファッション、建築など多彩な文化で溢れるイタリアという国は、統一されてからの歴史がまだ浅いため、街ごとに異なる文化背景を持つことが大きな特徴であることは、たびたびブログ内でも特記してきました。
ではこの「カルチャー首都プロジェクト」とは、どんなプロジェクトなのでしょうか。
文化省公認のプロジェクト
「イタリアカルチャー首都プロジェクト」とは、イタリア語での正式名称を”La capitale italiana della cultura”といい、
イタリア政府文化省(MiC)の7人の委員会により毎年一都市が選出され、1年の間その街の文化的な取り組みや発展がフューチャーされるプロジェクトです。
2014年に発足したまだ歴史の浅いプロジェクトですが、その着想は「欧州文化都市 / European Capital of Culture / La capitale europea della cultura」から得ており、当時の文化大臣ダリオ・フランチェスキーニ氏の後押しによって実現しました。
プロジェクトの目的
このカルチャー首都プロジェクトの目的は、
”社会的結束、統合、創造性、革新、成長、経済に対する
文化的影響力の価値が高まるように、都市の自律的な計画と実施能力を支援、奨励、促進すること”
とされています。
開催都市に選ばれると1年間積極的なアピールができるほか、100万ユーロ(2023年2月20日為替レート現在で、約1億4000万円!!)が贈られるので、町興しとして挑戦する都市が毎年たくさあります。
欧州文化首都とは
では、イタリア文化首都の元となった「欧州文化都市プロジェクト」とはどんなプロジェクトなのでしょうか。
1985年にアテネから始まったこのプロジェクトは当初、加盟国が毎年順に開催都市となり、その国の政府が開催都市を決めていたそうです。
初めは「欧州の文化的代表都市」が選出されていましたが、その経済効果に注目が集まり始めると、「経済的に停滞した、復興を目指した都市」が選定されるようになりました。
これまでイタリアで文化首都に選ばれたことがある都市は4都市。2033年の開催もイタリアの都市だと決定されています。
今年、2023年は、ギリシャ・エレウシス、ハンガリー・ベスプレーム、ルーマニアのティミショアラの3都市が選ばれています。
これまでのイタリア文化首都
2015年から本格的に開催が始まったイタリア文化首都プロジェクトは、本年の2首都を合わせて全部で13都市に上ります。
2015年に共同で称号を与えられた5都市は、2019年の欧州文化首都選考にてファイナリストに選ばれ、惜しくも優勝を逃した都市です。
2019年は欧州文化首都がイタリアから選出されたため称号はありませんでした。
また2020年にパンデミックの影響によりこのプロジェクトが期間内に十分に実施できないと判断されたパルマは、2021年にも引き続き文化首都を務めました。
2023年は2都市で共同首都
これまで毎年1都市が選ばれるのが通例だった文化首都プロジェクトでしたが、
Covid-19による甚大で深刻な被害をうけたベルガモとブレシアが、選考に参加しなかったのにも関わらず、その復興と再生のために共同で首都に名乗り出る提案をし、イタリア政府によって決定されました
BGBS2023プロジェクト
ベルガモとブレシアは非常に似た文化や性格をしているため、ベルガモ人とブレシア人は犬猿の仲である、とよく揶揄されます。
Bという頭文字も同じベルガモとブレシアの共同文化首都は、2023年1月20日にその幕が開きました。
プロジェクトのメインテーマは、「The Enlightened City(直訳:啓蒙された都市)」。何世紀も前から存在してきた2つの都市の歴史と現在を存分に魅せること、そして更なる発展を掲げています。さらに細かな4つのテーマはこちらです。
The city of hidden treasures
現在まで維持されてきた歴史や遺産を発見し保存しながら、それらを生かした新しいまちづくりを目指す。
The city of nature
人々の暮らしと自然との関係を今一度見直し、持続可能な方法で新たな関係を再構築する。
The inventive city
企業や商工会議所、大学、技術訓練機関などと共に才能を育成し、革新的な発明を可能にしていく。
Culture as a cure
悲劇的なパンデミックの経験から、国内外に明らかになった構造的な脆弱性を見つめ直し、予防と社会化のための文化という観点から人々の幸福を考えていく。
引用・翻訳:イタリア文化首都2023公式HPより
ニューヨークタイムズ紙も注目!
日本に住む皆様には、なかなかイタリアの情報が届かないかもしれません。しかしこの文化首都プロジェクトは、世界的にも注目を集めています。
なんと、ニューヨークタイムズ紙の「2023 年に行くべき 52 の場所」の特集に掲載されたのです。
このランキングでイタリアの都市から唯一のランクインとなったベルガモとブレシアは、52都市中47位にランクインしました。
ジャーナリストのJulie Besonen氏によると、「通常の状況下ではこの2都市はミラノに劣る可能性があるものの、文化首都に選ばれた今年は優先的なイベントが楽しめるだろう。(翻訳)」とのこと。
そんなベルガモとブレシアの街を少し解説してみます。
ベルガモ
ミラノから北に1時間と、日帰りで観光することができる手軽さもあるベルガモは、人口約12万人の穏やかな街です。チッタ・バッサとチッタ・アルタという、上下2つの街に分かれていることが最大の魅力です。
下の町という意味のチッタ・バッサは、鉄道のベルガモ駅を出てすぐ目の前に広がり、人々が主に生活する地域です。たくさんのバルやレストラン、商業施設、教育機関があり、ベルガモ県内外からも多くの人々が通勤や通学に来ています。
チッタ・バッサの奥に見えるのがチッタ・アルタ〈上の町〉です。中世に起源を持つチッタ・アルタは、ベネチア支配下にあった1500年代に難攻不落の要塞にすることを目的として建設され、現在も多くが当時の姿を残しています。
ケーブルカーで上まで上がると、まるで中世の街を歩いているかのような旧市街地が広がります。中心にあるヴェッキア広場では、毎日午後10時になると閉城を知らせる百発の鐘が現在も鳴らされ、当時の面影が残ります。
ローマ時代以前から存在していたとされるベルガモは、ローマ帝国やヴェネツィア共和国、オーストリア帝国など様々な勢力による統治を経て、現代に至ります。
1300年頃誕生したミラノとヴェネツィア、ローマを繋ぐ重要な郵便の役割を果たした飛脚会社や、15世紀頃に建設されたユネスコ世界遺産の城壁などの歴史的見どころを持ち合わせています。
ベルガモといえば
ガエターノ・ドニゼッティ | オペラ作曲家
19世紀前半のイタリアを代表する、オペラの作曲家。
ベルカント・オペラの3大巨匠と呼ばれ、ロッシーニ、ベッリーニと並んで人気を博しました。
代表作:
1832年 愛の妙薬
1835年 ランメルモールのルチア
アカデミア・カッラーラ | 美術館
ベルガモにある、美術学校を併設する美術館。300点を超える展示を所有しています。
美術品の収集家であったジャコモ・カッラーラ氏が、18世紀の終わりに膨大な美術コレクションをベルガモ市に寄贈したことが始まりでした。
美術学校は1912年まで同じ場所にありましたが、独立後公認の美術アカデミーとなっています。
オーリオ・アル・セーリオ空港
ベルガモ市街地から5キロほどしか離れていない、主に欧州の格安航空の発着空港です。
ライアンエアーの本部があるため欧州の旅行者に多く利用され、パンデミック以前の2019年には年間利用客が1200万人を上回っていたほど。隣接する巨大ショッピングモールも大人気です。
ブレシア
ブレシアもミラノから1時間ほどの大きな都市で、ロンバルディア州では2番目に人口が多い、19万人が住む都市です。イタリア有数の工業都市として有名で、機械産業、製鉄産業、武器産業を得意としています。
1200年前から存在するとされているブレシアは、12世紀に独立した自治体と宣言するまで、ゲルマン系のランゴバルド王国やヴェネツィア共和国などの勢力にさらされました。
またファシストの影響を受けたビルが残るなど、様々な時代の紆余曲折が現代も見てとれます。
ブレシア城と新・旧大聖堂、ロッジアの宮殿など歴史的で大きな建物が並び、街中には広場が点在しています。メトロが通るほどの規模があるブレシアの街ですが、東にガルダ湖、西にイーゼオ湖がある地形も特有です。
ブレシアといえば
ローマ時代のユネスコ世界遺産
568年に現ブレシアあたりに王国を築いたロンゴバルド王国の遺跡群である、ユネスコ世界遺産「イタリアのロンゴバルド族:権勢の足跡 (568-774年)」の一部がブレシアにあります。
ローマ時代の建造物フォロ・ロマーノやサンタジュリア修道院および美術館などがあり、サンタジュリア美術館は11000点を超える展示物もあるので、ぜひ訪れていただきたいです。
カーレース、ミッレミリア
以前ブログ内でも紹介した、クラシックカーレース「ミッレミリア」の発祥地でもあります。
今年は6月13日から17日にかけて予定されており、レース前からブレシアの街で様々な催し物が行われるのも見どころです。
またブレシアには、ミッレミリア博物館もあります。大会の歴史やレアなクラシックカーが並ぶ博物館、マニアにはたまりません。
フランチャコルタ
イタリアのスパークリングワインである、DOCG(統制保証付原産地呼称)のついたフランチャコルタ。
現在100を超えるワイナリーが生産しています。出荷までに長い年月がかかることなどから、国外へ流出しないこともしばしばあるようですが、日本とのビジネスをしているワイナリーもあるようです。
毎年9月頃にはフランチャコルタ・フェスタも開催され、地元料理とフランチャコルタがお得に楽しめるイベントも行われます。
BGBS2023 予定されているイベント
2023年1月20日に開幕したプロジェクトですが、12月31日までの約1年間に100を超える文化的・娯楽的イベントが既に計画されています。
今後も夏に向けて増えていくと予測されますが、個人的に注目しているイベントを3つご紹介します。
〈ブレシア〉リソルジメント博物館 / Museo del Risorgimento – Leonessa d’Italia
20年間もの間休館していたリソルジメント博物館が戻ってきます。
ブレシアのイタリア統一運動に関する博物館で、イタリア国内でリソルジメント(イタリア統一運動)に関する最も重要な博物館の一つとなっています。
1月28日に再開した博物館は、12月31日まで開館します。詳しい情報は こちら から。
〈ベルガモ〉チェッコ・デル・カラヴァッジョ展
バロック絵画の形成に大きな影響を及ぼしたカラヴァッジョの直弟子の一人、チェッコ・デル・カラヴァッジョに捧げられた初の展覧会が、アカデミア・カッラーラにて開催されます。
1月28日から6月4日までの展示予定です。詳しい情報は こちら から。
〈両都市〉スカラ座フィルハーモニー管弦楽団 藤田真央 特別コンサート
第 60 回ブレシアとベルガモの国際ピアノ フェスティバルにて、4月22日にブレシア、5月4日にベルガモでスペシャルコンサートが開催されます。
ブレシアでは、ラフマニノフの協奏曲第3番と、チャイコフスキーの「悲愴」、ベルガモではラフマニノフの協奏曲第3番、ストラヴィンスキーの聖歌、プロコフェフの交響曲第7番の予定です。
弱冠23歳の日本人ピアニスト藤田真央氏の演奏をイタリアで聞くことができる素敵な機会となりそうです。
詳しくは こちら から。
他にもオペラや演劇、コンサート、展示会、講演会など多岐に渡ったプログラムが続々と発表されています。
終わりに
イタリアの街の文化を思い切り楽しむことができる、イタリア文化首都プロジェクト。
旅行の定番観光地を少し外れて、今年しかできない特別な経験をしてみるのはいかがでしょうか。
イタリアへご旅行の際、今年はベルガモとブレシアにもぜひ足をお運びください。
〈こちらの記事もお読みください〉
〈参考サイト〉
Bergamo Brescia Capitale Italiana della Cultura 公式ホームページ:https://bergamobrescia2023.it/en/
欧州文化首都 公式ホームページ:https://culture.ec.europa.eu/