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ITALIA DESIGN BLOG
2022.10.13 [thu]
イタリア料理を3つ挙げて!と言われたら「チーズ、マルゲリータピザ、ジェノベーゼパスタ!」と簡単に思い浮かぶほど、日本人にも馴染みが深いイタリア料理。
しかし旬の食材を使った料理や郷土料理を教えて、と言われたら困ってしまう人が多いのではないでしょうか?
イタリアの人々も日本と同じように四季を大切にし、地域の伝統料理を受け継いでいます。今回はイタリア人の食へのこだわりが詰まったサグラについて取り上げたいと思います。
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日本ではまだ馴染みがない「サグラ」という言葉は、イタリア語で収穫祭を意味します。その語源はラテン語のsacro=神聖という言葉で、その意味から想像できるようにかつては宗教的な意味が強かったようです。しかし、現在はさまざまな起源を持つ収穫祭・食べ物の祭りの総称としてイタリア人の食への興味を刺激し続けています。
農村の収穫の恵みに感謝し、その年に採れた食物を持ち寄って祝う習慣は、以前の「イタリア版“お盆休み”、フェラゴスト」記事内でも取り上げたように、ローマ時代からの農村の習慣として根強くあり、フェラゴスト、サグラとそれぞれ大切にされてきたようです。
また動物や産物などが捧げられ、市民の間で感謝と共に消費されたことから、その名残が伝統料理として現代まで受け継がれている地域も数多くあり、その収穫祭と伝統料理を祝うのがサグラであることもあります。
サグラは収穫祭だけを起源にもつわけではありません。カトリック教会の影響が強いイタリアでは、街にひとつは教会と広場があり守護聖人に捧げられていますが、その聖人の命日に合わせて祝う行事としてサグラが行われることがあります。
様々な背景を持つサグラですが、現在は町興しにも広く活用され、地元だけでなく観光客への新たな観光アピールとして注目を集めています。
サグラと同様に、フェスタ、フィエラという言葉も大まかに祭りという意味を表しますが、フェスタは「festival、祭り」と、祝日やクリスマスなどの祭り全般を指し、一方でフィエラは「見本市」という意味合いが強いため、食べ物以外のエクスポなどを指す場合にも使われます。またサグレはサグラの伊語複数形なので、基本的にはサグラと同じ意味です。
サグラは主に食に関する祭りを指しますが、サグラにはテーマとなる食材が掲げられ、その地域を代表するもの、旬のものが取り上げられることがほとんどです。
日本と同じように、地域によって習慣や言葉まで違うイタリアは、もちろん食文化も多様性に溢れています。旅行先でその地域の食事を体験できるレストランに行くのも良いですが、地元の人たちによって守られてきた伝統料理をその人たちと一緒に味わうことができるのが、サグラの最も魅力的なポイントの一つと言えます。
通常サグラはテーマ食材の旬の時期もしくは聖人の祝日などに行われるため、年に一度しか開催されないことがほとんどです。
またかつては街の住民だけで祝われた行事であることから、現在もポスターなどで告知されている場合が多く、イタリア人も他の街のサグラ情報を得ることが難しいそうです。SNSの普及やサグラを町興しに活用しようとする動きは年々大きくなり、少しずつ変化しています。
また会場の雰囲気も独特なものがあります。かつては市民の祝祭だったことから、街の中心である教会やPiazza(広場)、またはその近くに設営された場所が会場になることが多く、地元の人たちが腕を振るい調理をする、巨大な食堂のような賑わいを見せます。
食事の他にも伝統的な音楽、ダンス、演劇などの催し物も予定され、飲んだり食べたり楽しく過ごすのがお決まりです。その雰囲気は上品とは言い難いですが、街全体がみんなで作り上げる非常にローカルな雰囲気に包まれ、とても居心地の良いお祭りです。
文化の一部として古代から受け継がれてきたサグラ。その土地の味をベストな時期に楽しめることが最大の魅力ですが、現代にその価値が見直されている背景を探ってみましょう。
地産地消とは、その土地で採れたものをその土地で消費することを表しますが、この考え方がイタリアの日常には未だ強く根付いています。
というのも、イタリアが共和国として一国に統一されたのはほんの約200年前。それまでずっと小国の寄せ集めだったイタリアは州や市ごとの特色が強いため、現在でも地域ごとに異なる食文化や風習が存在します。
地元を大切にするイタリア人たちは自分達で作ったものを自分達で消費するサイクルを作り出し、サグラやメルカート(市場)なども頻繁に行なっています。
次に、スローフードの考え方です。ファストフードに対して、「おいしく健康的で(GOOD)、環境に負荷を与えず(CLEAN)、生産者が正当に評価される(FAIR)食文化を目指す社会運動(日本スローフード協会より)」を表します。
今では世界的に認知されていますが、その発祥は1980年代、イタリアピエモンテ州のブラという街でした。その土地の伝統的な食文化を見直すという運動ですが、その中でイタリアが習慣的に行なってきたサグラやフィエラ、メルカートなどに再び注目が集まっています。
最後に、エノガストロノミーの側面です。エノガストロノミーは簡単に、地元のワイン×地元料理のことを指す造語ですが、エノはワインを、ガストロのミーは美食学を指します。
ブドウの栽培からワインにして瓶に詰めるまでのワイン醸造全てに関する学問のこと。
生物学、作物栽培学、人類学など食や食文化に関する総合的学問体系のこと。
イタリアではワインは食事と合わせて楽しむものという概念があり、例えば魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインとさまざまな楽しみ方が想定されています。料理とワイン、どちらも主役となりながらお互いを引き立て合うような関係性です。
これは高級料理店だけでなく食卓でも大切にされ、もちろんサグラでも大事にされます。サグラの際には伝統料理に合わせた地元のワインが振る舞われることも多く、中には市場にあまり出回っていない貴重なワインが味わえることもあります。
今でこそ学問的名前が付けられ見直されているイタリアの地域の食文化ですが、イタリア人にとっては昔から大切にしてきた習慣の一部です。彼らが大切に受け継いできた食文化を垣間見れるのがサグラのお祭りなのです。
初夏から晩秋まで各地でサグラが開催されるイタリアですが、中でも代表的な2つのサグラをご紹介します。
地中海に浮かぶサルデーニャ島で毎年7月末に行われる、玉ねぎがテーマの「サグラ・デッラ・チポッラ・ドラータ・ディ・バナーリ」。2022年は7月23日・24日の2日間行われました。
テーマ食材の玉ねぎは、島北部のバナーリの田園地帯でのみ栽培される地域特有の玉ねぎで、大きくて平らな形が特徴です。大きなものは400gから1kgにまで育つそうです。
そんな玉ねぎをふんだんに使った伝統料理が振る舞われるサグラですが、今年は何百人もの人々が訪れました(記事より意訳)。イベント中には音楽ライブやDJセット、ダンスなども行われたほか、玉ねぎのコンペも開催され、賑わいを見せました。
一方こちらは、りんごのサグラ。イタリア北部のトレントで毎年りんごの収穫時期である10月頃開催されます。今年は10月15日と16日をメインに開催が決定していますが、サブイベントは10月1日から行われる予定です。
トレントにあるVal di Nonで栽培されているりんごは、2013年にイタリアで初めてD.O.P.の認定を受けたりんごで、世界的にも有名なりんごの産地です。
D.O.P.=保護指定原産地表示あるいは原産地名称保護、つまり「生産・加工・調整の全工程が同一地域内で行われたことを示し保護するマーク。
イベントはVal di Nonのカゼス村で行われ、木からりんごを摘んだり、シュトゥルーデルというハンガリー由来のりんごパイの作り方を学んだりと貴重な体験ができるようです。またこの地域では蜂蜜や乳製品、ワインなども多く作られることから、村全体をあげてのフード・イベントになる予定です。
10月15日・16日のサグラ
「POMARIA」
10月1日から16日のサブイベント
「POMARIA ~on the road~」
*画像クリックでPDFが開きます
食べることが大好きな筆者も、サグラに行きました!とてもローカルでユニークな体験になったので、少しご紹介したいと思います。
まずはトスカーナ地方に行ったときに立ち寄った、ボルゲットの魚祭り(Sagra del Pesce)。6月24日から26日の3日間夜に、街の広場で開催されていました。
車で到着すると人々の賑わいが聞こえ、イタリア初夏の夕暮れ時!というワクワク感に包まれていました。広場の入り口を入ると会計小屋があり、メニューのリストと値段が書かれた紙を渡されます。そこに食べたいものの数を書き込み、先に代金を支払う仕組みです。
値段は良心的な場合が多く、家族連れや友達と来ている学生もたくさんいました。支払いの後は自分で見つけた席に座り、ボランティアのウエイターに半券を渡します。
ワンプレートの前菜から到着。
左上が、コイ科テンチのスモークペーストのバゲット、その下が魚のペースト、赤いバゲットは魚のトマトソース煮込みペースト。そしてスペルト小麦(farro)の野菜と魚のサラダ。
日本人には慣れっこの魚料理ですが、筆者は淡水魚の料理はほぼ初めて。どれも魚独特の味はありながら、濃すぎない味付けになっていて、とても美味しい魚のパテとサラダでした。
次にメイン。
スモークテンチのスパゲッティ。トマトベースにしないことでテンチの出汁が引き立ち、スパゲッティに絡んでとても美味しかったです。ニンニクの風味も堪らない!
このほかにもコイのオーブン焼き、湖で採れた淡水魚とウナギの煮込みスープ、魚の串焼きなどを食べましたが、どれもさっぱりした塩味で美味しかったです。ワインは魚料理に合わせて白を頼みました。
広場にはステージも設営されており、大賑わい。歌手のステージやバンドの演奏、ダンスなどが夜22時以降も続けられ、皆飲んだり食べたりしながら一年に一度のお祭りを楽しんでいました。
この魚祭りが行われる街ボルゲットは、南北に長いイタリアのまさに真ん中に位置する人口わずか258人(2001年調べ)の集落です。イタリアで4番目に広いトラジメーノ湖の北西にあるこの街は、1960年代には湖を中心とした漁業のおかげで繁栄していました。その頃漁師たちが水揚げした新鮮な魚を、村の女性たちが広場で捌き料理を振る舞ったことから、この魚祭りが始まったと言われいます。
50年以上の歴史を持つボルゲットの魚祭りは毎年6月末に行われ、時期に合わせて帰省する人たちなど人口の倍以上の人たちが集まります。「こんなに大きくなったのねえ。」と子供を撫でるおばあちゃんや、「1年ぶりだね〜!」とはしゃぐ若者など、まるで日本の夏のお祭りのような賑わいでした。地元を大切にし一緒に祝うことのできる、サグラならではの時間でした。
次は、守護聖人の祝日に由来する、街をあげてのフェスタです。筆者が住む街ベルガモはイタリアの中でも特に宗教色の強い街の一つとして知られていますが、この街の守護聖人はベルガモのサンタレッサンドロとして親しまれる、3世紀ごろ活躍した兵士アレッサンドロです。
彼の命日とされる8月26日に合わせて、約1週間にも及ぶ祭りを開催します。コロナ禍で開催が見送られていましたが、筆者は今年初めて行ってみました。
街には夏休みから帰ってきた人たちの再会で溢れ活気に満ちていましたが、皆どうやら同じ目的地に歩いているようでした。聖アレッサンドロの教会です。
聖アレッサンドロは、3世紀頃ローマ帝国の将軍マウリツィオによって指揮された伝説のテーベ軍団の旗手であったと伝えられています。長い旅の中で、何度かあったキリスト教に対する迫害の中で生き延びたアレッサンドロはイタリア内で投獄と脱獄を繰り返し、最終的にベルガモの森に身を隠しました。しかしローマ兵にすぐに見つかってしまい、現在教会の前に建っているクロタシオの柱のある場所で斬首の刑により殉教者となったとされています。
聖アレッサンドロのサグラは、クロタシオの柱のそば、巨大テントの中で行われていました。夕飯時に行ったのでずらりと人が並び、入り口まで15分ほど待つ間にメニューを選びます。
こちらのサグラはメニューが豊富(ピザもある!)で、比較的安価な値段設定でした。
今回もレジで食べたいものを伝え先払いをした後、自分たちで空いている席へ着席。今回はレジにて飲み物の番号と食べ物の番号2つを渡され、呼ばれたら自分で取りに行くスタイルでした。
前菜は、3種のベルガモチーズの盛り合わせ(上段)。
プリモ・ピアットは、ベルガモ料理のパスタ、カゾンチェッリ(中段右)。
セコンド・ピアットは、ローストビーフ(中段左)、ポレンタとサラミ(下段右)、追加ポレンタ(下段左)。
肉が包まれたパスタをバターでソテーしたカゾンチェッリ、とうもろこし粉をお粥のようにしたポレンタなどどれもベルガモならではの郷土料理で、熱々をいただきました。
ベルガモのサグラも家族や友人と来ている人たちが多く、おばあちゃんが孫にデザートを買ってあげたり、肌の焼けた子供たちが久しぶりの再会に楽しんだりととても賑やかでした。
テントの一角にはビンゴ用の掲示板と景品も用意され、夜遅くまでお祭りが続きました。隣接する教会では聖アレッサンドロに思いを馳せ祈りを捧げる人も多く、普段なら閉まっている夜の教会に立ち入る貴重な経験でした。
イタリアのローカルな食体験サグラ、いかがでしたか?
日本人と同じように、実はイタリアの人たちも伝統や季節を大切にしてきました。イタリアという国や人を食の観点から知ってみるのはいかがでしょうか?きっとあなたの知らない、素敵な彼らを知ることができます。
〈参考サイト〉
「日本スローフード教会」公式ホームページ:https://slowfood-nippon.jp/
サグラやフェスタに関する情報サイト:https://www.panesalamina.com/
トレントのりんごのサグラ、POMARIA公式ホームページ:https://www.pomaria.org/