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ITALIA DESIGN BLOG
2022.08.21 [sun]
日本では、多くの会社員が8月中旬に”お盆休み”と題してまとまった休暇をとりますが、実はイタリアでも同じ時期に”イタリア版お盆休み”があることをご存知でしょうか?
実家に帰省したり旅行に出かけたりする人が多い日本の夏休みと比べて、イタリア人は夏休みをどう過ごすのでしょうか?イタリアでの実体験や感想を織り交ぜながら解説したいと思います。
INDEX : クリックで移動
1. イタリアの夏休みは1年前から始まっている!?
2. キリスト教の祝日、フェラゴスト
3. 起源は約2000年前 古代ローマ時代
4. 近代のフェラゴスト
୨୧ シチリアの伝統デザート Gelu di mulunaのレシピ ୨୧
5. イタリア人の夏休み
6. コロナ明けの旅行は大変?最も“高額”な夏休み2022
7. 終わりに
イタリアの一般的な夏休みは日本と同じく7月から8月ですが、小学校は早くも6月(!)に終了してしまうため、幼い子供たちをもつ親やおじいちゃんおばあちゃんたちは、5月からソワソワし始めるイタリア。
早ければ子供の夏休み入りに合わせて第一休暇に行く家族も多い…となると、5月に各種予約をするのではすでに遅いのです。なんと彼らは、早くて1年前の夏休み中に、遅くても12月のクリスマスや4月のイースターなど家族が集まる時に夏休みの計画を立て、予約までしてしまうのです!
特にコロナ禍や戦争の影響で旅行を自粛していた人たちが我慢の限界を迎えている今年は、早めに計画を立て確実に休暇に行けるように準備をしたり、シーズンで様々な価格が高騰する前におさえておいたりした人も多い印象でした。またコロナ禍でリモートワーク対応の企業が増えたおかげで、大人も子供に合わせて6月から旅行に行ってしまうというケースも増えているようです。休暇に全力をかける姿勢、さすがイタリア人!と感心してしまいます。
そして7月から8月にかけて街中のお店や個人の夏休みが明確になり、店先には「Chiuso per ferie(夏休みのため休業)」「Ci vediamo in Settembre!(9月に会いましょう!)」「Buon Ferragosto!(良いフェラゴストを!)」という紙が貼られるようになります。夏休み=フェラゴストという認識が一般的になっている現代ですが、フェラゴストとは具体的に何を意味するのでしょうか?
イタリア版の“お盆休み”は毎年8月15日と定められており、正式に「フェラゴスト / Ferragosto」と呼ばれます。地域によって時期が異なる日本のお盆とは異なり、イタリアの8月15日はキリスト教に関わる国民の祝日に指定されています。
一般的にその前から休暇に入っている人が多いため、特別8月15日を意識して”休み”だと感じている人が少ない反面、この日を中心に家族や友達との計画を立てたりする人も多いようです。
フェラゴストは4月のパスクア(復活祭)、12月のナターレ(キリスト生誕祭)と並んで、キリスト教の
3大祝日と言われており、この3行事には家族や友人と会い食事をしたり一緒に過ごしたりするのが一般的となっています。
イタリア人にとって“フェラゴスト”とは、「夏休み」、「楽しい」、「家族や友人と過ごす」といったことが連想される行事ですが、少しその宗教的背景を見てみたいと思います。
キリスト教の祝日として祝われているフェラゴストですが、
日本語では「聖母被昇天祭」と言われ、イエス・キリストの母である聖母マリアの肉体と霊魂が天国にあげられたことを記念し、祝う日です。1950年に正式に教義になりました。
現在、世界中にキリスト教を信仰している民族文化は数多くありますが、その全ての国で祝日に制定されているわけではありません。欧州ではフランスやスペイン、ポルトガル、ギリシャなどで祝日とされていますが、他欧州諸国または南アメリカ諸国などでは、聖母マリアの被昇天を意味する「アサンプション」として祝われる場合が多いようです。
そんなフェラゴストですが、その起源は古代ローマ時代にさかのぼると言われています。
始まりは、紀元前18年にローマ帝国初代皇帝、アウグストゥス帝が定めた8月1日の「Feriae Augusti(アウグストゥスの休息という意味)」という労働後の休息日でした。
また、古代ローマ時代の8月には元々数多くの収穫に由来した祭りがあったことが記録されています。有名なものでは、8月13日から15日には、ネモラリア(Nemoralia)と呼ばれる狩猟と月の女神ディアーナに敬意を表する祝日、19日にはヴィナリア(Vinalia)というワイン葡萄の収穫祭、そして21日にはコンスアリア(Consualia)と呼ばれる別の収穫祭がありました。
アウグストゥス帝は、それらをつなげて長期的な連休を設ける目的があったそうです。のちにそれらの祭り全てがまとめてAugustali(アウグスターリ)と呼ばれるようになり、イタリア語で8月を意味するagosto(アゴースト)の語源になりました。
ネモラリア / Nemoralia
狩猟と月の女神ディアーナに
敬意を表して祝う祭
ヴィナリア / Vinalia
ローマ神話の天空神ユーピテルと
愛の女神ヴィーナスの名の下祝われていた、ワインのための葡萄の収穫祭
コンスアリア / Consualia
穀物神のコーンススの収穫祭
古代ローマ時代、これら3つを含むお祭りを行う際には、競馬をすることが習慣となっていました。また祭りの期間中は家畜も労働から解放され、牛やロバなども花などで飾られてお祭りに参加しました。そこから派生したお祭りが、現在でも伝統を守り続けているシエナのパリオとされています。12世紀からシエナ・カンポ広場で行われている馬のレース、パリオは、13から14世紀頃から8月15日の聖母マリアの被昇天を讃えるお祭りとして祝われており、第二次世界大戦の期間を除いて現在まで毎年開催されています。
また8月から秋にかけて、イタリアではサグラと呼ばれるお祭りも多く開催されます。ラテン語のsacro(神聖)から派生したこの祭はいわゆる収穫祭の一つであり、旬を迎えた地元の食材を美味しく味わうことのできる食べるお祭りです。特にトスカーナ地方で行われることが多く、トリュフやキアニーナ(伊ブランド牛)、チンギアーレ(猪)、ワインなど様々な食材がテーマになっています。これらの収穫祭も古代の時代からの名残りだと言われているようです。
今でこそフェラゴスト=旅行、というイメージが一般に普及していますが、その発端は20世紀前半のファシスト政権の時代でした。ムッソリーニ氏は労働組合や企業などと協力して、人々が旅行するよう促進しました。
中でも有名なのは、イタリアの鉄道が1931から39年の間に打ち出した割引企画の「特別人気列車(通称:フェラゴスト列車、“Treni Popolari Speciali”)」です。このキャンペーンは、8月13日から15日の間限定で「半径100kmまでの1日旅行」と「半径200kmまでの3日旅行」などと大々的に打ち出し、これによってそれまで旅行ができなかった人々がイタリアのさまざまな都市や海・山などに行けるようになりました。
トリノでは20世紀半ばまで、多くの市民がポー川沿いの公園でピクニックをしたりレストランに行ったり、イタリアに程近いニースでは会場花火が今でも行われているなど、地域によって祝い方が異なるようです。
地域の特色は食べ物にも表れています。主にトスカーナで食べられるのは、鳩のロースト。鳩を食することは欧州では珍しくありませんが、鶏や七面鳥のようにオーブンで丸焼きにした料理を食べる地域があります。中に野菜やサルシッチャなどを詰めたレシピもあるようです。夏に賑わう南の島、シチリアでは、Gelu di mulunaと呼ばれるスイカゼリーが定番です。日本のスイカ3個分ほどの大きさのスイカが主流なイタリアですが、その果汁を砂糖とゼラチンで固めたシンプルなデザートがシチリアの伝統料理として現在でも残っています。レモンの葉やジャスミンの花で飾りつけられた赤いゼリー、夏っぽくてインパクトがありますね!
Gelu di muluna レシピ
スイカの果汁 – 1L
デンプン – 100g
砂糖 – 100g
お好み1: ジャスミンのエッセンス又はシナモンスティック
お好み2: ダークチョコレート又はキャラメリゼしたピスタチオ
レシピ引用:Tredizioni Sicilia “U gelu ri muluni, ecco come prepararlo“
詳しくはレシピ引用元をご覧ください。
1. スイカの種をとりミキサーで果汁を作る。
2. 澱粉とスイカ果汁半分をよく混ぜ、スイカ果汁の残りの半分を合わせ、鍋で弱火にかける。
3. 適度な甘さになるまで砂糖を加え、とろみがつくまで約10分間煮込む。お好み1を入れる場合この工程で加える。
4. 型やグラスに流し入れ、冷蔵庫で4〜6時間冷やし固める。
5. お好み2で飾り付けて完成。
ここまで8月15日のフェラゴストの由来や歴史について解説してきましたが、現代のイタリア人はどのようにフェラゴストや夏休みを過ごしているのでしょうか?
先に述べたように、8月15日を含めて長期休暇をとっている人が多いのが現状です。日本のリサーチ企業マクロミルが行ったアンケートによると、日本人を対象としたアンケート回答者の平均夏休み日数は「6.0日」ですが、伊紙La Reppublicaによるとイタリア人の平均夏休み日数は「9.8日」とおよそ1.6倍の長さとなっています。
フェラゴストを目掛けて帰省する人が多く、家族や友人と過ごすほか、プールや海などの入浴、ピクニック、キャンプ、BBQ、キャンプファイヤーなどをするのもフェラゴストの定番の過ごし方のようです。また夏の間に「1ヶ所だけに旅行に行く」、というよりは、「3日間ここに行って、その次は1週間違う場所へ」と夏休みを満喫する人も筆者の周りには多いです。イタリアという国は観光の魅力に溢れている上に、欧州他国へのアクセスも非常に良いので、格安航空券や車などを駆使して飛び回る人がたくさんいます。
一方で、同じ時期にたくさんの人が移動するため、時にイタリア北部から南部へつながる道路では頻繁に交通渋滞が起きてしまいます。というのも飛行機を使わず車で何時間もかけて南下していく、というのもイタリア人の旅行スタイルの一つだからです。
また南部を中心としたリゾート地や大都市などは大いに賑わう季節ですが、特に北部の中小都市はとても閑散とした1ヶ月となります。イタリア人が街からゴッソリいなくなり、ほとんどのお店はシャッターがおりるか時間短縮営業、外出できる場所やイベントも皆無!なんてことも珍しくはありません。
筆者は3年目にして初めて街にとどまっているのですが、行きつけのバルは9月にならないと開かない、スーパーでさえ午前中しか開いていないという状況に直面しています。最近は一昔に比べて営業を続けているところも増えたようですが、“みんなで休業してみんなで休暇をとろう!”という潔さはとてもイタリアっぽいなぁと感じています。
コロナが発見されてから約2年半が経った2022年の夏休みですが、サル痘や戦争などの世界情勢も相俟って、なんと「ここ50年で最も高い夏休み」になると旅行関連サイトSi Viaggiaが8月9日に報じています。
Codaconsというイタリアの消費者団体の調査をもとにしたこの記事では、夏期間のサービスや物価などの価格について述べられています。その概要は次のとおりです。
これらの結果、今年10日間の夏休みをするのに必要な費用は、前年よりも15.5~20%高くなる予測で、2021年が1人当たり平均€996だったのに対し、2022年は1人当たり平均€1195になると予測されています。
その中でも航空券の価格高騰は止まるところを知らず、8月にローマから中国・北京に行こうとした場合、総飛行時間32時間に3回の乗り換えとかなり不便な日程にも関わらず、片道で最低€3396(!!!)もかかるそうです。
ミラノに住む筆者の中国出身の友人は渡伊してから一度も帰国できておらず、今年こそは帰りたいとずっと言っていましたが、エコノミークラスで片道約40万円なんて到底払えないと涙目で話していて胸が痛む思いです。今年はイタリア国内を旅行している友人たちが多いことも踏まえると、やはりイタリアないし欧州に留まっているイタリア人が多いようです。
今回はイタリアの夏休みとキリスト教の祝日フェラゴストについて詳しく解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか?イタリア人は街からいなくなる8月ですが、他国の人々がイタリアに旅行に来るので、ローマ、フィレンツェ、ミラノなどの大都市は賑わっている場合が多いです。筆者はこの記事を書いている今、ベルガモ・チッタアルタのバルにいますが、ベルガモには格安航空の発着空港もあるおかげか、かなりの数の観光客で溢れています。依然、旅行することが難しい世の中ですが、日本の方々も気軽にイタリアに戻って来れるようになる日を待ち侘びています。
BUON FERRAGOSTO E BUONA VACANZA A TUTTI !
〈参考サイト〉
https://it.wikipedia.org/wiki/Ferragosto 『フェラゴスト Wikipedia』
https://siviaggia.it/notizie/estate-piu-cara-ultimi-50-anni/376376/ 『L’estate più cara degli ultimi 50 anni, Si Viaggia.it』
https://www.tradizionisicilia.it/u-gelu-ri-muluni-ecco-come-prepararlo/ 『U gelu ri muluni, ecco come prepararlo, Tradizioni Sicilia.it』